「テスラが追っていた“無線送電”は、実はギザの大ピラミッドが昔からやっていた技術だった」。そんな動画タイトルは、とても魅力的です。もし本当なら、世界のエネルギー問題は一気にひっくり返る。ロマンとしては最高です。
ただ、この手の話は、ピラミッドの“異様な精度”やテスラの“未完の夢”に、いろいろな仮説を重ねて一本の物語にします。物語が気持ちよくつながるほど、どこからが確認できる事実で、どこからが推測なのかが見えにくくなる。
この記事では、ギザ大ピラミッドとテスラをめぐる「無限エネルギー」説を、できるだけ一次・公的・学術情報に寄せながら、事実/推測/意見に分けて整理します。読み終えたときに残るのは、陰謀の快感ではなく、「何が面白くて、何が足りないのか」を自分で判断できる軸です。
「大ピラミッドは墓ではなく“発電所”で、石英を含む花崗岩の圧電効果や音響共振で電気を生み、テスラは同じ原理を地球共鳴と無線送電で再現しようとした。だから“無限でクリーンなエネルギー”は可能だった」。
大ピラミッドは「墓」なのか?

「他の墓と違ってヒエログリフや副葬品がない」「ミイラが見つかっていない」です。これは半分当たりで、半分はミスリードです。
事実:ギザの三大ピラミッド(クフ、カフラー、メンカウラー)は、内部に装飾やヒエログリフがほぼありません。ブリタニカも「期待するほどの文字やミイラがない」と明記しています。
ただし、これは「墓ではない」証明にはなりません。ブリタニカは同時に、装飾が本格化するのはもっと後の時代で、ギザの時代(第4王朝)の内部が簡素なのは不思議ではない、という文脈を示しています。
事実:王の間には花崗岩の石棺が残り、しかし中身は失われています。これもブリタニカが説明しています。
古代・中世に盗掘されていた可能性は高く、「中身がない=最初から墓じゃない」とは言い切れません。
さらに、ギザは世界遺産として「王墓の発展(マスタバ→ピラミッド)」の流れの中で位置づけられています。
つまり主流の枠組みでは、大ピラミッドは“王の葬送建築の頂点”という扱いです。
ここでの僕の結論はこうです。“墓として変”に見える点は確かにある。でも、それは「発電所」を証明するほど強い反証ではない。むしろ「第4王朝の王墓の作法」と「盗掘の歴史」を前提に置くと、かなり説明がつきます。
“精度と素材”はすごい。でも「すごい=発電所」ではない
大ピラミッドの方位精度や規模が驚異的なのは、主流の資料でも認められています。ブリタニカも「四方位への正確な配置」を述べています。
ここに「だから特殊装置だ」と言いたくなる気持ちは分かります。でも、ここは一歩止まるべきです。
石材についても、事実として面白い点は多いです。
事実:外装の化粧石はトゥーラ(Tura)産の白い石灰岩が使われ、磨かれて輝いていたことが知られています。スコットランド国立博物館の解説でも、トゥーラの化粧石が“光るほど磨かれた”と説明されています。
事実:王の間は花崗岩で作られています。
事実:大ピラミッド近くには巨大な採石場があり、コア部分の石材供給源として合理的に説明されています。
ここまでで言えるのは、「古代エジプトの土木・物流・測量が相当高かった」ということです。けれど、素材に花崗岩(石英を含む)がある=圧電発電の装置とは、まだ距離があります。素材の“性質”と、装置として“電力を取り出す設計”は別問題だからです。
「発電所」仮説の核心
事実(物理として):圧電効果は実在します。石英などの結晶は、圧力をかけると電荷が生まれます。
事実(形として):2018年の論文は、「大ピラミッド形状が、特定の電磁波(ラジオ周波数域)の条件でエネルギーを内部や近傍に“集中させる”共鳴特性を持ちうる」という計算・モデル結果を示しています。
ただし、これは “外から来た電磁波を集める”話であって、“新しく電力を生む(発電する)”話ではありません。たとえるなら「レンズみたいに集める」性質で、発電機ではない。
推測(動画側のジャンプ):クリストファー・ダンの「発電所モデル」では、地下水流→共振→ガス→圧電→電離…のように段階を積み上げますが、その多くは“装置として成立していた”ことを示す直接証拠(配線、取り出し端子、運用痕跡、燃料供給の痕跡、継続運転の痕跡)が不足しています。
化学物質の痕跡についても、仮説を化学的に検討した論考は存在しますが、これだけで「発電所だった」と確定するのは難しい、という位置づけに留まります。
そして、ここが決定的です。
意見(僕の見立て):仮に圧電が働くとしても、エネルギーは“どこか”から来ます。圧電は、圧力や振動という機械的入力を電気に変換する仕組みです。入力が無限でない限り、出力も無限にはなりません。電磁共鳴も同じで、外部から入ってくる波を集中するだけです。
つまり「無限エネルギー」になる瞬間に、物理としての説明が一気に苦しくなります。
テスラは“何をやろうとした”のか

テスラ側は、事実としてかなりドラマがあります。
事実:テスラは「地球そのものを媒体にする送電」を構想し、無線送電の特許も残しています。
事実:ウォーデンクリフ・タワー(Wardenclyffe)は、当初は無線通信の実験施設として計画され、のちにテスラが規模拡大や“無線電力”に傾き、資金難に陥った経緯がまとめられています。
資金提供者J.P.モルガンが追加資金に応じなかったことも、この流れの中で説明されます。
さらに、テスラの死後が“陰謀っぽく見える”最大の理由が、資料の扱いです。
事実:テスラの死後、Office of Alien Property(敵産管理の政府機関)が所持品を押収した経緯が、PBSのテスラ特集で説明されています。
事実:FBI記録上「80のトランクがあったが、ベオグラードに届いたのは60」という話があり、ここが“欠落=隠蔽”の想像を生みやすい点として報道されています。
ただし、ここも切り分けです。
推測:「欠落=フリーエネルギー技術の隠蔽」とまでは、一次資料で確定できません。箱数の食い違いは、梱包・移送・分類の問題でも起こりえます。
意見(僕の見立て):テスラの“未完の構想”と“資料のドラマ”が、ピラミッドの“謎”と接続されると、物語としては完璧になります。でも、物語の完璧さは、真実の証拠とは別です。
まとめ
大ピラミッドは、精度も規模も素材も、とんでもない建造物です。けれど、そこから「発電所だった」「無限エネルギーだった」に飛ぶには、運用痕跡や電力取り出しの証拠が足りません。2018年の研究が示した“電磁波を集中させる共鳴”も、発電の証明ではなく、形状が持つ物理特性の話です。
テスラについては、地球を媒体にした送電の構想や特許、ウォーデンクリフ計画、死後資料の押収といった「ドラマの核」は事実として存在します。だからこそ、何でも“隠されたフリーエネルギー”に見えてしまう。
僕は、この話の一番おいしい食べ方は「否定か肯定か」ではなく、どの部分が科学の言葉で確かに語れて、どの部分が物語として語られているのかを見抜くことだと思います。その目があると、ロマンを楽しみながら、足元も滑らなくなります。
私見・所感

僕は「無限エネルギー」みたいな言葉を、すぐに全部バカにしたくはありません。人が“世界を良くしたい”と思うとき、そういう夢の言葉を使いたくなるのも分かるし、テスラの人生は実際に夢でできているからです。
でも、夢を本物にするには、検証が必要です。圧電も共鳴も本物の物理で、そこは面白い。だからこそ、発電所という主張をするなら「取り出し」「運用」「再現」が要る。ここが欠けたまま話が大きくなると、ロマンが“信仰”に変わってしまう。
結局僕が一番好きなのは、「謎がある」ことより、「謎を扱う姿勢」が磨かれることです。ピラミッドもテスラも、素材として強すぎる。だからこそ、事実と推測を分ける目を、毎回ここで鍛えたいと思っています。
参考にした文献
- Balezin et al. (2018) “Electromagnetic properties of the Great Pyramid…”:ピラミッド形状が特定周波数で電磁波を集中しうるという研究(※発電の証明ではない)
- UNESCO世界遺産「Memphis and its Necropolis…」:ギザを王墓発展史の中で位置づける公的整理
- Britannica「Pyramids of Giza」「What’s inside the Great Pyramid」:内部に文字やミイラがない/盗掘の可能性/石棺のみ残る、という基本事実
- AERA「Great Pyramid Quarry」:大ピラミッド近傍の採石場と石材供給の説明
- National Museums Scotland「Casing stone…」:トゥーラ産化粧石の由来と“磨かれて輝いた”説明
- Britannica「Piezoelectricity」「Electricity(圧電の説明)」:石英などの圧電効果が実在する物理現象である根拠
- Tesla特許 US1119732A「Apparatus for transmitting electrical energy」:地球と高所端子を使う送電構想の一次資料
- Tesla Science Center(Wardenclyffe)解説:無線送電構想とウォーデンクリフの背景整理
- PBS “The Missing Papers”:テスラ死後にOffice of Alien Propertyが所持品を押収した経緯
- History.com:FBI記録の「80トランク→60到着」問題が陰謀説の温床になっている点
