日本は、世界3位の経済規模を持ち、インフラも治安も水準が高い国です。
それなのに、30年以上もほとんど成長していない――そんな言い方をよく耳にします。実際、1990年代以降、日本の実質成長率は他の先進国と比べて低い状態が長く続き、「失われた30年」と呼ばれているのは事実です。
では、そのブレーキを踏んでいるのは誰なのか。
政治なのか、官僚組織なのか、グローバル企業なのか。
ある対談番組では、この「日本の成長停滞」と「政治の裏側」をテーマに、与野党の政治家、研究者、そしてインフルエンサーが集まり、かなり踏み込んだ議論をしていました。
ここでは、その番組で語られていたポイントを整理しつつ、実際のデータや事実も合わせて、できるだけフラットにまとめてみます。
「豊かなのに伸びない国」になった理由
まず押さえておきたいのは、日本経済がまったく伸びていないわけではない、ということです。名目GDPは一応増えていますし、観光や製造業など、世界で一定の存在感を持つ分野もあります。
それでも「停滞」と言われるのは、他の先進国と比べたとき、成長スピードが明らかに遅いからです。実質GDPや一人あたりGDPでみると、1990年代以降の日本は、アメリカや欧州の主要国に大きく差をつけられています。
番組の議論では、この背景として、次のような構図が語られていました。
- 1990年代以降、「財政再建」と「緊縮」が合言葉になり、公共投資や社会保障を絞る流れが強まったこと
- 消費税の導入・増税によって、家計の負担がじわじわ増え、内需が冷えたこと
- 一方で、大企業や輸出企業には減税や優遇策が多く、中小企業や地方には十分な資金が回っていないのではないか、という疑問
実際、日本の政府債務残高はGDP比で世界でもトップクラスですが、これは「国民から円建てで借りている自国通貨建ての借金」であり、すぐに破綻するとは限らない、という指摘もあります。
つまり、「借金が多いからお金を使えない」のか、「お金を使わないから成長せず、借金が相対的に重く見える」のか――この因果関係の見方が、大きな争点になっているのです。
公明党離脱と、新しい政局の意味
番組では、最近の大きな出来事として、「自民党と公明党の長年の連立解消」が取り上げられていました。実際に、2025年10月、約25年続いた自民・公明の連立が解消され、新しい与党構成に変わっています。
この転換は、単なる「仲違い」以上の意味を持つ、とゲストたちは見ています。
- 公明党は長く「ブレーキ役」として、自民党の一部の強硬路線や改憲路線を抑える役割も担ってきた
- その一方で、中国へのパイプが強い政党として、外交面で微妙なバランス役でもあった
番組内では、公明党代表が連立解消直前に中国大使と会談していた、という事実にも触れながら、
「対中姿勢をめぐる路線の違いが、連立解消の背景にあったのではないか」
という、やや陰謀論めいた見方も紹介されていました。
同時に、政治資金パーティーをめぐる“裏金問題”で、自民党への信頼が大きく揺らいでいたことも無視できません。2023〜24年にかけて浮上した「政治資金パーティーの裏金化」問題は、安倍派を中心に多くの議員を巻き込み、検察の捜査にも発展しました。
こうした一連の流れの中で、新しい首相と政権が誕生し、
「積極財政に舵を切るのか、それとも従来どおり緊縮なのか」
という争点が、より表面化してきています。
「責任ある積極財政」とは何か

番組でキーワードとして何度も出てきたのが「責任ある積極財政」という言葉でした。
これはざっくり言えば、
- 短期的にはプライマリーバランス(国の家計簿の収支)黒字化をあまり気にせず
- まずは景気回復や賃上げ、インフラ投資などにお金を回し
- 結果として税収が増え、長期的に財政が改善していく道筋を目指す
という考え方です。
一方で、「縮財政」を唱える側は、
- すでに政府債務がGDPの2倍以上ある日本で、これ以上借金を膨らませれば、金利が上がって財政が破綻する
- 人口減少社会で成長を前提にした財政拡大は危険だ
と警告します。Reuters
番組では、どちらか一方が完全に正しい、というより、
- どこまで財政を拡張しても安全と言えるのか
- そのお金を「誰のために」「どこへ」投じるのか
この設計の部分こそが、本当の争点だと強調されていました。
同じ「積極財政」でも、大企業の減税や補助に偏れば、格差拡大を招きますし、地方や教育・医療・子育てに回れば、内需と生活の底上げにつながる可能性があります。
「日本の成長を止めているのは、財務省か、グローバル企業か、それとも有権者の無関心か」
グローバリズムとナショナル経済、その線引き

もうひとつ重要なテーマが、「グローバリズム vs ナショナルな経済運営」という構図です。
グローバリズムとは、簡単に言えば「国境を越えたお金やモノの自由な動き」を重視する考え方です。多国籍企業が世界各地で生産し、安いところから仕入れ、高いところに売る。その結果、世界全体としては効率が上がり、安い商品が行き渡る――というメリットがあります。
しかし番組では、次のような問題も指摘されていました。
- 税金や補助金の設計が、大企業や金融機関に有利になりやすい
- 安い労働力や海外調達に依存すると、国内産業や雇用が空洞化しやすい
- 消費税増税と法人税減税の組み合わせで、「大企業は楽に、国民は負担増」という構図になっていないか
一方で、極端な保護主義に振れると、物価高や技術の遅れにつながるリスクもあります。
求められているのは、「完全な自由化」でも「完全な鎖国」でもなく、
どこまでを全球化に委ね、どこからを国内の生活と産業を守るラインにするか、という繊細なさじ加減です。
防衛費やエネルギー投資の話題でも、
「どうせお金を使うなら、国内企業や研究開発に回し、雇用と技術の両方を育てるべきだ」
という意見が番組内で強く出ていました。
コロナ、情報統制、そしてメディア不信

政治と成長の話から少し視点をずらすと、
コロナ禍やワクチン政策をめぐる「情報の出し方・隠し方」についても、番組では激しい議論がありました。
- 死因の分類やワクチン後のデータがどこまで開示されていたのか
- 専門家会議や行政判断の過程が、どれだけ検証可能な形で残っているのか
- 異論や疑問を投げかける研究者・医師の声が、メディアやSNSでどのように扱われたのか
これらは日本だけの問題ではありませんが、「科学」と「政治」と「メディア」が複雑に絡み合った領域であることは確かです。
さらに、SNS時代ならではの「フィルターバブル」という問題もあります。
アルゴリズムが利用者の好みの情報だけを見せ続けることで、人は自分の考えと合う情報ばかりを浴び、別の現実を生きている人たちが見えなくなっていく、という現象です。PMC+1
番組では、
「コロナをきっかけに、政府にもメディアにも完全には信頼を置けない人が増えた」
「だからこそ、データの開示と議論の場を広げないと、陰謀論だけが肥大化してしまう」
といった危機感が共有されていました。
政治資金・献金・スパイ、見えない利害の問題
日本の成長停滞と政治の裏側を語るとき、避けて通れないのが「お金の流れ」の問題です。
前述の裏金問題だけでなく、
- 政治資金パーティーのチケット購入者が誰なのか
- 外国資本や特定の業界団体から、どのような形で支援が入っているのか
- 献金やパーティー収入が、どの政策や発言に影響しているのか
こうした点が十分に見えないことが、国民の不信を生んでいます。ウィキペディア
番組内では、「スパイ」という言葉も使われていましたが、
ここで言うスパイとは、映画のような工作員だけを指すのではありません。
- 外国企業や政府と近い立場にいながら、国内の情報を流す人
- 特定の業界のために動くことが、結果として国全体の利益とズレている人
こうした存在に対して、登録制度や情報公開をもっと厳格にすべきではないか――という議論がなされていました。
再生可能エネルギー政策(メガソーラーや風力)に関しても、
「本当に環境のためなのか」「誰がどこで利益を得ているのか」という視点から、利権構造を疑う声が上がっていました。
ニューメディア時代と、これからの「政治を見る目」
「ニューメディアの役割」と「私たち一人ひとりの見る目」です。
新聞・テレビの部数や視聴率は世界的に低下し、
YouTubeやSNS、ポッドキャストなど、個人発信のチャンネルが世論に影響を与える時代になりました。
これはチャンスでもあり、リスクでもあります。
- チャンス:
既存メディアが扱わないテーマやマイナーな論点が、ニューメディアで取り上げられやすくなる
官僚組織や大企業にとっても、「世論の空気」が変われば、方針を見直さざるを得なくなる - リスク:
事実確認が甘い情報や、感情的な煽りだけのコンテンツが、拡散されやすい
フィルターバブルの中で、互いに異なる「現実」を生きる人々の対話がますます難しくなる
番組の結びでは、
「政権が変わったからすべて良くなるわけではないし、陰謀論だけで世界を説明することもできない。
だからこそ、データを見て、仕組みを学び、それでも分からない部分には“?”をつけたまま考え続ける姿勢が大事だ」
というメッセージが語られていました。
日本の成長を止めている“真犯人”を、今ここで特定することはできません。
それでも、
- どこにお金が流れているのか
- どのメディアが、何を伝え、何を伝えていないのか
- 誰の利益のために、どんなルールが作られているのか
この3つを意識してニュースを見るだけでも、「政治の裏側」は少し輪郭を帯びてきます。
完璧な答えはなくても、「気づいている人」が増えること自体が、この国のブレーキを少しずつ緩めていく力になる――
この記事は、そんな小さなきっかけになればと思います。
参考にした文献
- ・日本の「失われた30年」と長期停滞の議論(低成長・デフレ・人口減少などの背景)公明党
・日本の一人あたり実質GDPの国際比較データ(OECD統計)Nippon
・日本の政府債務残高(対GDP比)に関するIMFの統計と財政持続性の議論Reuters
・自民党と公明党の連立解消、及び新政権発足に関する2025年の報道ウォール・ストリート・ジャーナル+1
・政治資金パーティー裏金問題と自民党派閥の捜査に関する報道ウィキペディア
・フィルターバブルとアルゴリズムによる情報偏りに関する研究と解説PMC+1
